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The 9th Life of Louis Drax ルイの9番目の人生

カナダ映画 (2016)

代理ミュンヒハウゼン症候群という重度の精神疾患を抱える母が レイプされて生まれたルイの、「九死に一生を得られなそうにない人生」を描いた不思議なサスペンス映画。そこに、9回目の「事故」で昏睡状態になったルイの意識下の想念が、ルイを最も可愛がっていた義父の魂と混ざり合って起きるファンタジー要素が加わる。映画の中のルイはベッドで寝たきり状態になっているが、「死に瀕した子供の映画」といった暗さは全くなく、ルイは、過去のシーンや意識下のシーンで全編に登場する。IMDb6.3、Rotten Tomatoes39%(24/62)と冴えないが、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)に91%の高評価を付けるアメリカの評論家や雑誌は信用できない。個人的には及第点の60%は十分にあると思う。リズ・ジェンセンの原作『ルイの九番目の命』(2004)を読んでいないので原作者の意図は分からないが、映画だけ見ていると、ファンタジーの部分が、少し突飛で、分かりづらい気もする。主人公のルイの小生意気なしゃべり方は、結構面白く、映画にメリハリを付け、プラスに働いている。もう少しさっぱりと作れば、もっと高評価の作品になっていたであろう。ルイを演じたエイダン・ロングワース(Aiden Longworth)は、カナダ人で、カナダの子役に多くあるようにアメリカのTVで活躍していたが、本格的な映画に主演するのはこれが初めて。その割には堂々とした演技を見せてくれる。

ルイは、生れ落ちたときから、ありとあらゆる災難にあってきた。ただし、8回死にかけたというのはオーバーで、深刻な事故は、赤ちゃんの時の全身骨折と、85%の確率で感電死しかけた時、それに、最後の昏睡状態の3回。他は、食中毒のような中軽度のものが多い。それでも、『事故に遭いやすい』子と言われ、自分でも、そう呼ばれるのを「ムカつく」と強く思っている。お陰で、ルイは、ニヒルで生意気な子になった。セラピストのペレス博士に対しては、平気で「デブ」と呼びかけ、質問に対しては質問で応じ〔セラピストと同じ〕、博士を面白がらせる。そんなルイが一番慕っていたのが、義理の父親のピーター。赤ん坊の時に母と結婚したため、ピーターが本当の父でないことは伏せてあるが、何でも知っているルイはそれを承知の上で、ピーターを誰よりも好いている。そして、9歳の誕生日。別居していた父も加わり、3人でピニニックに出かける。そこで悲劇は起きた。ルイは崖から海に落ちて、全身打撲と冷水に長く浸かっていたため昏睡状態となり、回復の見込みは立たない。父も行方不明で、警察は父の犯行だと思い込む。その状態が続いた後、ルイの名前で1通のブラックメイルが届けられる。そして、また1通。ルイは昏睡状態なので、第三者が書いたに違いない。それも、行方不明の父のせいにされる。事態が大きく動くのは、父の死体が ルイの転落した現場近くで発見されたこと。ルイの手紙が出されたのは、父の死亡の後だ。これで情勢はがらりと変わるが、何故か誰もルイの母に疑惑の目を向けない。彼女が若くて美しいからか? 突破口は、昏睡児の専門医でルイの主治医のパスカル博士が、夢遊状態でルイの手紙と同じ筆跡のメモを書いた出来事。これにより、パスカル博士は、昏睡状態のルイの「意思」が、自分の体を操ってメモを書かせたと考える。そして、精神科医でもあるペレス博士に頼んで、催眠状態でルイとコンタクトしようとする。それは成功し〔ここが、一番嘘っぽい〕、ルイの意識は、パスカル博士の口を通し、9歳の誕生日に実際に何が起こったのかを詳しく伝える。それは、驚愕でも何でもない当たり前の事実だった。辺鄙な場所に3人がいて、うち2人が事故に遭った場合、犯人は残る1人しかいない。ただし、ルイの母が代理ミュンヒハウゼン症候群で、ルイの苦難の人生は、「わが子に毒を盛り、病気に仕立てて同情を買う」という病気のなせる悲劇だったことは、確かに驚愕の結末だ。昏睡状態にあるルイの下す決断は、心温まるエンディングになっている。

エイダン・ロングワースは、映画の設定では9歳だが、撮影時は恐らく11歳。参考までに、エイダンが最初に出演したビデオ映画『A Christmas Story 2』(2012)における、4年前(7歳?)のあどけない表情を紹介しておく。ちょうど、クリスマス・シーズンなので。
  


あらすじ

映画は、ルイの早口の独白で始まる。「僕はいつも事故に遭う。そして、また次の事故に。ある日、空から落ちてくる子供がいたら、それはきっと僕だ。僕は、ルイ・ドラックス、すごく『事故に遭いやすい』子だ。僕の最初の事故は生まれた時だった」。この時は、逆子で、帝王切開で無事切り抜けた。「2つ目の事故は、生後16週目に起きた」。天井から照明器具がベビーベッドの真上に落ちてくる(1枚目の写真)。「僕の小さな肋骨は折れて潰された」。独白はさらに続く、「僕はクモに噛まれ、ハチに刺された」。そして、コンセントにフォークを差し込もうとして、「感電死寸前までいった」(2枚目の写真)。「めったに起きないことも、僕には起きる」。スパゲティを食べていたルイは(3枚目の写真)、気持ちが悪くなりトイレに駆け込む。「僕は、何度も食中毒になった。サルモネラ、破傷風、ボツリヌス中毒、髄膜炎など いっぱい罹った〔どれが7回目か、よく分からない〕。「昨年の冬には、叫び過ぎたため、9分半も呼吸が停まった〔これが8回目〕。「僕の9回目の誕生日に、家族でピクニックに行った。ママとパパと僕は とっても幸せだった。お互いが また好きになったみたいだった。顔を持たない怪物なんか潜んでいなかったし、『すべての事故を終わらせる最後の事故』が、僕に降りかかるなんて起こりそうになかった」。ルイは、崖から転落し(4枚目の写真)、海中深く沈んでいく。「ママは、僕を天使だと言った」。ここから、昔、母がルイに話しかけたシーンに変わる。「あのね、ルイ、猫は9つの生を持っているとされるの。魂が体に結びついていて離れようとしないから。もし、あなたが猫だったら、今は8度目の人生ね。1年に1回。これ以上、使わないで」。「とっても寒いや。僕 死んだの?」。すると、映画『怪物はささやく』のような、深い声が聞こえる。「これは、お前の9回目の人生だ。一緒に謎を解いてみよう。驚くほど『事故に遭いやすい』子の奇妙な謎を」。とてもコンパクトで、刺激的なスタートだ。
  
  
  
  

ルイの転落現場には救助隊だけでなく警察も駆けつける。高さ30メートル以上はありそうな崖から転落するには、何らかの作為があった可能性が高い。疑いは、姿の見えない父親にかけられる。ルイが どのような状態で発見されたかは分からないが、意識不明のルイは担架に載せられ、救難ヘリに吊り上げられる。同乗している母は涙にくれている(1枚目の写真)。病院に辿り着いた時には、既に頸動脈波はゼロで、19時55分に死亡が宣告される(2枚目の写真、矢印は死亡時刻を示す時計)。それからしばらくして、ルイは検死室に運ばれる。係員が顔にかけられた白い布をめくると、いきなりルイの体が震え始める(3枚目の写真)。病院側は大急ぎでルイをERに戻し、外科医が呼ばれる。「血圧90/16、血中酸素95」。市内で講演していた小児昏睡の専門医にも緊急呼び出しがかかる。医者の名前はパスカル。「患者の名前はルイ・ドラックス。9歳です。救急隊に運び込まれた時には死亡していました。検死の準備中に蘇生しました」。「怪我の原因は?」。「ランズ・エンドの崖から、凍りそうな水に落ちました。CTによれば、ほとんどの骨が折れています」。死亡を宣告した医師は、パスカルに こう説明する。「彼は2時間死んでいた。こんな経験は初めてだ。私のミスだ」。パスカルは、「溺れて低体温の場合、小児では死亡状態になることが、ごく稀に起きる。自分を責めるな」と慰め、ルイの状態を訊く。「脾臓を摘出する必要がある。折れた肋骨が左肺を圧迫している。頭蓋骨骨折もある。最悪だ」(4枚目の写真)。しかし、パスカルは、「でも、生きている」と言う。「昏睡状態だ」。「でも、生きている」。
  
  
  
  

パスカル医師は、ルイの母に、「あなたに、おめでとうと言わないと」と声をかける。「医師は『奇跡』という言葉は使いません。しかし、これは、実に『異例』です」。母は、ルイについて、「この子が生まれてからずっと、私は、心を通い合わせてきました。お互いの考えを知るんです。双子のように」と打ち明ける。これは、重要な伏線だ。そして、「馬鹿げて迷信的に聞こえるでしょうが、ルイがこれまでどんな目に遭ってきたかご存知になれば…」と言った後で、「彼は、他の子とは違います。天使だと思っています」と付け加える。ここで、ルイの独白にスイッチ。「問題児の母親でいることは容易じゃない」(1枚目の写真)。そして、そのまま、過去の追想に移行する。「ママはいつも心配ばかり。僕を『守らなくちゃ』ってね」。すると、エレベーターに乗ったルイのズボンに急速にシミが拡がる。小便を漏らしたのだ。「ほらね、僕のせいだ。だから、僕はデブのペレスに会うことになった」(2枚目の写真)。過去の追想シーンは、それが現実のものであろうと、そうでなかろうと、写真の左端に山吹色の帯を付けることで区別した。ここで、再び、低く深い声がする。「デブのペレスって誰だ?」。「デブのペレスは、テブの読心術者。だけど、読心は下手なんだ。彼は年寄り、たぶん40で、ブクブクの顔してる。赤ちゃんみたいだ」。
  
  

ペレス博士がドアを開ける。ここからは、ルイの最初の診察の場面。入口では、ペレスと母が話している。「何を話すんだ?」。「僕が話したいことは、何でも。彼は、それを誰にも話しちゃいけないんだ。2人だけの秘密だから」。この言葉も伏線。母は外で待っていて、部屋の中はペレスとルイだけになる。ペレスは、よくあるように1人でイスにかけ、ルイはソファに座っている(1枚目の写真)。「あんたのエレベーターが、放尿させた〔makes me urinate〕」。「軽度の閉所恐怖症だ。心配しなくていい。エレベーターは狭い。君は大きいだろ」。ルイは、「あんたほど大きくない」と、あざ笑うように言う(2枚目の写真)。かなり生意気だ。最近読んだ本を訊かれ、ルイは聖書と答え、好きな部分は「蛇の部分」と言う。「アダムはすごいバカだ。罰せられて当然だ」。「どうして?」。しかし、ルイは、それには答えず、「これ、何ドルとるの?」と訊く。「そういう質問は、ママやパパにしなさい」。「あんたに訊いてる。幾ら?」。「何で、訊きたがる?」。「僕は、1日中 座っていたい。『もっと話して』と言って、何億兆も稼ぐんだ」。これには、さすがのペレスも笑う。「大人ってのは、安楽な暮らしだと思ってるんだな? それが望みかね? 大人になることが?」。「バカな質問だ」。「どこが バカなんだ?」。「僕は、絶対 大人になれないから」。「なぜ?」。ルイの顔が急に曇る(3枚目の写真)。大人になるまで生きていられないと確信したからだろう。
  
  
  

パスカルは、最初の医師から、この件には警察が介入していること(担当は、ドルトン警部)、事故ではなく、父親が突き落とし、逃走中だと聞かされる。パスカルは、昏睡病棟に入れられたルイに向かって、「私のことは、アランと呼んでもいいし、パスカル博士でもいい。たいていの人はパスカルって呼ぶ」と親しげに語りかる(1枚目の写真)。「君は 昏睡状態なんだ、ルイ。眠ってるみたいだが、もっと深い。君の置かれた状態に対しては かなりの〔quite a few〕理論がある。昏睡状態の一部の人は、目を覚ましたくないと望んでいる、という理論だ。安心できない限り戻れないと感じているんだ。ルイ、ここなら君は安心できる」。恐らく、この言葉に刺激され、場面は再びペレス博士の診察室に戻る。時期は、先ほどよりは後で、左の前腕にギブスをはめている。「腕をどうしたんだ?」。「事故だった」。「どんな事故?」。「墓を掘ってて滑ったんだ」。「墓? 何の?」。「人間だよ。丸ぽちゃの頬をしたすごいデブ男のね」〔ペレスのこと〕。「事故が多いんだな」。「僕は、事故に遭いやすいんだ。それがどうかした?」(2枚目の写真、矢印はギブス)。ルイ:「大きな事故のこともあるし、小さな時もある」。「大きな事故って、入院を要するようなもののことかい? そりゃ、悪くないな。病院は楽しいだろ?」。「痛いのは嫌だよ」。「ゼリーやアイスクリームもある」。「うん。ちやほやしてくれるし、学校に行かなくてもいい」。「病院に行くと安心できるから、ホッとするんじゃないかな?」。「僕が、故意にやってると思ってるの?」(3枚目の写真)。
  
  
  

警部は、ルイの父が 病棟のルイを襲うことを心配し、警備体制を質問している。逆に、医師の側からルイに関する情報を求めると、ルイがセラピストのペレスの所に通っていたと話す(1枚目の写真、メモを見ているのが警部、矢印は部下の刑事が手にしたペレスの自著)。ルイは学校に馴染めず、友達もなく、「Whacko〔異様な〕 Boy」と呼ばれていたと話す。パスカル:「彼の記録を見ると、くり返し怪我を負っているようですが」。「真相は不明ですが、セラピストは『注意を惹くための自傷』だと考えています」。「しかし、入院は幼年期から始まっています。父親からの暴力なのでは?」。警部は、話を変える。「少年が目覚める可能性は?」。「脳波図から判断して、延性植意識障害〔植物状態〕と診断します」。その後、パスカルとルイの母は、病院内の公園を一緒に散歩するが、その時、パスカルは「ルイは、まだ、物を感じることができると信じています」と話す。「彼は、遠い存在のように見えますが、何らかの方法で まだ一緒にいるのです」。さらに、「彼と接触し、抜け出させる方法を見つけないと」とも〔これも、重要な伏線〕。母は、「ルイは隠れているんですか?」と訊く。その頃、病院では折れた肋骨の接合と脾臓の摘出手術が行われていた(2枚目の写真)〔脾臓は摘出しても日常生活に影響はほとんどないとされる〕。その後に示される、断片的な映像とルイの独白は、手術の成功を示唆しているように見える。ただし、母とパスカルが一緒にいる2つのシーンで、「men have no honor(名誉なき男たち)」という言葉が意図的に使われる〔伏線→ルイはパスカルと母の関係を疑っている〕。このシーンの最後。母はルイに寄り添っている。「あなたのベッドのすぐ脇にいるわ」。「彼女ったら、赤ん坊みたいに話しかけるんだから」。「こんな風にぎゅっと手を握ると、ママを感じるかも」(3枚目の写真)。
  
  
  

母が額にキスをして去ると、ルイの背後の空間が海の中のように揺らめき、中から何かが姿を現す(1枚目の写真、矢印は「何か」)。昏睡状態にあるルイの想念での出来事を示すシーンは、写真の左端に空色の帯を付けることで区別した。「話を続けてくれ」。「これは、ある日、起こったことなんだ」(2枚目の写真、ルイが昏睡から覚めたわけではない。「何か」に向かって、想念が語りかけているのが映像化されている)。「パパは、僕をシーワールドに連れて行ってくれた。サンディエゴで一緒に週末を過したんだ。そうすれば、ママを休ませることができる。だって、僕たち2人とも男で、時々、男って過ぎたるは及ばざるがごとしで〔sometimes, men can be too much of a good thing〕、頭痛の種になるから」。
  
  

シーワールドで、父は偶然 昔の妻と出会う。「パパは、誰か知ってる人と偶然出会った」。「驚いたな」。「パパは、一瞬 吐きそうに見えたが、相手の頬にキスした」。「この子がルイなのね」(1枚目の写真)。ルイ:「あなた誰?」(2枚目の写真)。「私はケイトリン、こっちは夫のアレックスよ」「アレックス、これはピーター〔父の名〕とルイ」。アレックスは、「そうか、君があのピーターか」と言って握手する。ルイ:「どうして、子供が中国人なの?」。2人は、子供が授からないと思った2人が2年前に引き取った養子だった。「その後で、嬉しい驚きが」。「青天の霹靂だった〔a bolt from the blue〕」。1枚目の写真で アレックスが多機能抱っこひもで胸に抱いているのが、その遅れて授かった赤ん坊。ここで、2組は分かれる。
  
  

ホテルに戻ったルイは、「パークで会った女の人、誰?」と訊く。「前に知ってた人だ。僕らは友達だった。仲のいい友達だ」。「彼女とセックスしてたの?」。父は、「結婚してた」と告白する。これは、ルイにも意外だった。「結婚?」(1枚目の写真)。「そうだ。ずーっと前だ」。「そう…」。「なあ、怒ったっていいんだ。今まで 黙ってたからな」。「僕がどうして怒るの? 今は、ママと結婚してるじゃない。じゃなきゃ、僕はここにいなかった。2人の中国人の子供がいて、デブのペレスみたいなデカくてバカ顔の赤ちゃんがいたかも」。父は、この冗談にホッとしたが、母にはケイトリンと会ったことは黙っているよう頼む。「嘘つかせるの?」。「嘘はついて欲しくない。ただ、何もかも話す必要はない。ママはとっても壊れやすいから。いいな?」。ルイは、頷いて同意する(2枚目の写真)。しかし、家に戻ったルイは、どんなに楽しかったか話す時、「前、ママが結婚してたケイトリンて名前の女性に会ったよ」と言ってしまう(3枚目の写真)。「パパは、言わないほうがいいって言ったけど、僕はどうしてか分からないな。だって、彼女、今は他の人と結婚してて、中国人の養子2人に、赤ん坊までいるんだ」と話しす。それは、告げ口ではなく、母を安心させようとした配慮だったが、「壊れやすい」母には通じなかった。このことが原因で、激しい夫婦喧嘩が始まってしまう。
  
  
  

そのシーンの途中で、いきなり、ペレス博士の声が割り込む。「シーワールドでの出来事を、なぜママに話したんだ?」。「何でさ〔Why not〕? 両親は、もう愛し合っていない。多分、憎み合ってる。2人とも離婚したがってる。でも、できないんだ。僕がいるから」(1枚目の写真)。「なぜ?」。「2人とも知らないと思ってるけど、僕は知ってる」。「何を?」。「パパは、ホントのパパじゃない」(2枚目の写真)「『パパだぞ』って演じてるだけ」。「それでママは?」。「ママはホントだ」(3枚目の写真)。「本当のパパは誰だと思う?」。「いない」。「いいか、誰にだってパパはいる」。「僕は違う」。「もし、この世で誰か一人を選ぶとしたら、誰にパパになって欲しい?」。「誰でもいの?」。「誰でも。生死は問わない」。「あんただよ」(4枚目の写真)。「私?」。「冗談だよ」。ルイらしさが発揮されたシーンだ。
  
  
  
  

大勢の客を招いた屋外パーティが開かれている。その中に、同僚が可哀想にと思って呼んだルイの母もいた。彼女は、悲しんでいると気付かないが、笑顔のとってもチャーミングな若い女性だ。パスカルは、思わず見とれてしまう。2人が仲良さそうに話していると、機嫌を悪くしたパスカルの妻が割り込んでくる(1枚目の写真)。次のシーンでは、母が、「ラスプーチン3世」という名札の入った籠を持って病院のエレベーターに乗っている。籠の中に入っているのは、ルイが最後の誕生日に父から贈られたハムスターだ。母の服は真紅のワンピース。金髪が映えて凄くセクシーだ。彼女は、動物の持込みが禁止されている病棟に籠を持ったまま入り、籠からハムスターを出してルイの体の上を這わせる。パスカルを見た母は「ルイにお友だちを連れて来たの」と言う。「この病棟では、動物は許されていません」。「赤ちゃんだから、誰も傷付けないわ」(2枚目の写真、矢印はハムスター)「ルイが大好きなの」。「例外としましょう。ただし、今回限りですよ」。ルイには、やはり何らかの知覚はあるらしい。というのも、シーンは、ルイとラスプーチン2世との「交流」場面に変わるからだ。大人のハムスターが床の上をウロウロ歩いていると、分厚い本が落ちてくる。ルイは、床に落ちた本を拾うと、「こっちへおいで、ラスプーチン」と声をかける。「時間切れだ」。そして、本を頭の上に振り上げ、「アブラカタブラ」と言うと(3枚目の写真、矢印は厚くて重い本)、ハムスター目がけて投げつける。
  
  
  

そして、4回目のペレス博士のセラピー。「可哀想なハムスターたちのことだが… なぜ、殺したんだ?」。「お医者さんにしては、あまり利口じゃないね、デブチン。ルール知らないの?」。「ルールって?」。「ルールがあるんだ。破ったら監獄行きさ。秘密のルールだけどね」。「それと、ハムスターとどんな関係があるんだ?」。「ペット飼育の秘密のルール、その1」(1枚目の写真)「ハムスターを飼ってて、もし、それが齧歯動物の平均寿命2年を超えた場合、飼い主が望めば殺すことが許される」。「その秘密のルールには、名前があるのか?」。「あるよ。『廃棄の権利』さ。毒や除草剤を使ってもいいんだ」(2枚目の写真)「持ってればね。それとも、何か重いものを落としてもいい。医学百科事典や『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』みたいなのを」。「どこで、その秘密のルールを覚えたんだ? パパから聞いたのかい?」。大好きな父を疑われ、ルイは、ペレスを睨みつける(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーン。母が博士に食って掛かる声が聞こえる。「あなたのやり方、気に入らないわ。そう、ルルをここに連れて来たのは私よ! ピーターは何も悪くない!」。ルイは、廊下に座って待っている〔待合室がない〕。いきなりドアが開き、母が出てくる(1枚目の写真)。「行くわよ、ルル」。母は、ルイに、「ペレス博士とは、二度と会わなくていい」と言う。「僕、何か悪いことした? 彼、何て言った?」。場面は変わり、ルイがラスプーチン2世の籠の中に落ちている糞を集めて封筒に入れている。そして、切手を貼る。封筒を持つ手の下にあるのは、ペレスの著書。表紙の顔写真がはっきり見てる(2枚目の写真、矢印)。一種のブラックメイルだ。ここで、また、内なる声が聞こえる。「なぜ、そんなに怒るんだ?」(3枚目の写真)「彼は、僕が話したことをしゃべった。2人だけの秘密なのに。ママに話したんだ。男なんてみんなそうだ。平気で嘘付いて、『恨むなよ』って演じるんだ」。「なぜ、男を嫌う?」。「ママに悪いことするから」。
  
  
  

パスカルとルイの母は、病院内の公園を散歩している。「私は、ルイの記録を見ました。あなたがペレス博士の診療を終わらせたのは、事故の直前でしたね」。「ペレスは、いつもピーターを疑っていました。あの時は、私を 夫と敵対させようとしてると考えたんです。でも、今では、よく分かりません」。パスカルは、「何があったか誰かに話すと、気が楽になるかもしれませんよ」と言って、事故のことを聴き出そうとする。「ルイの誕生日でした。実は、私の誕生日でもあるんです。2人のもう1つの共通点ね。ピーターは、サンディエゴから車でやって来ました。私たちが別居してから、彼は母親と一緒に暮らしてましたから」。さらに、「ピクニックに行くことにしたんです」。そして、その途中で口論が始まったと話す。「ピーターは、私がルイのセラピーを終わらせたことで怒ったんです」。口論は、ピクニックの場でも続く。ただし、画面では何を争そっているのは分からない。あくまで、母の一方的な話だ。「本当の理由を話したくなかったんです」(1枚目の写真、この画像は、最後の方で再登場する「画像」と対比して欲しい。母は手にキャンディの入ったガラス瓶〔矢印〕を持っているが、母の「説明」では、このビンに対する言及は全くない)。「彼は、暴力的になりました」。「殴られた?」。「ルイは、怖がって逃げ出しました」「ルイは崖のすぐ近くにいて…」。ここで、母と父がルイを奪い合うシーンが挿入される。そして、父がルイを奪う(2枚目の写真)。「私は、落ちて行くルイの顔が目に焼き付いています」(3枚目の写真)「彼は、叫ぶことも、泣くこともせず、ただ 失望したように見えました」。
  
  
  

「彼は、ルイやあなたに、前にも暴力を振るいましたか?」。母は、それには答えず、「ピーターと会った時、私は18でした。彼は、私が知り合った唯一人の男性です。比較する人がいないので、どうお答えしたらいいか分かりません」。「あなたには、いくらでも相応しい人がいる」。「どうして分かるの?」。「分かるんです〔I just know〕。どうしてかな〔What was that for〕?」。この意味深な言葉の後、パスカルは母とキスする。母も嫌がらず 2人は抱き合う。母の目が一瞬開き、そして、その目は驚愕のあまり大きく開かれる(1枚目の写真)。昏睡状態にあるはずのルイがベッドから起き上がって、2人のキスする姿をじっと見ていたのだ(2枚目の写真)。これは、2つ前のシーンでの内なる声との会話、「なぜ、男を嫌う?」。「ママに悪いことするから」に対応している。
  
  

ルイの覚醒に病室では大騒ぎ。看護婦が、「ルイ、聞こえる?!」と必死に呼びかける。窓の外から見られていることに気付いたパスカルも、全速力で駆けつけ、「ルイ、そこにいるのか? 聞こえるか?」と声をかける。看護婦:「何かを言おうとしています」。ルイは、「パパは… パパは…」と話し始めるが(1枚目の写真)、そこに母が抱き付いてきて邪魔をする。「ルイ、坊や、ママはここよ!」(2枚目の写真)。パスカルは、母を引き離すが、もう時は失していた。ルイは再び昏睡状態に戻っていく(3枚目の写真)。
  
  
  

画面は、ルイの部屋での記憶に移行する。ドアがノックされ 父が入ってくる。「何を読んでる? ああ、クストー〔フランスの有名な海洋学者〕か」(1枚目の写真、矢印)「『The Living Sea』〔1963年の著作、未翻訳〕だな。まだ好きなのか?」。ルイは頷く〔ルイの昏睡時の心象世界が常に海と関係しているのは、クストーの世界が好きだからだろう〕。父は、「ちょっと話してもいいかな?」と訊く。「パパは、行かなくちゃならん。ほんの… 少しの間」。「どこに行くの?」。「遠くじゃない。サンディエゴで、おばあちゃんと暮らす」「いつでも電話できる。ちょっと離れるだけだ」。「僕のせい? シーワールドのこと、ママに話したから?」(2枚目の写真)。「違う。そのせいじゃない。お前は、何もしちゃいない。今、ママはとっても落ち込んでるから、少し距離を置いてあげるんだ」〔シーンはここで終わるが、実は続きがあり、それが映画のラストに使われる〕
  
  

夜、パスカルがルイに話しかけている。「今日の君はすごかった。君がどこにいようと、私たちは仲良くなれそうだ。お母さんは君のことが大好きで、戻ってくるのをずっと待っている。私もだ。君にプレゼントを持ってきた(1枚目の写真、矢印は『The Living Sea』)。「一緒に読もうと思ったんだ。君の一番のお気に入りだろ」。パスカルが、声に出して本を読み始めると、背後で変な気配がする。振り返ると、床の一部が濡れている。そして、そこから点々と黒いシミのようなものが延びている。パスカルは、シミを追って廊下に出る。かがんで黒いものを拾うと、それは海草だった。黒い海草は手術室の中に消えていて、そこから音が聞こえる。パスカルが部屋に入って行くと、手術台の陰から黒い塊が姿を現した(2枚目の写真、矢印は頭部らしきもの)。その瞬間、ルイが目を開け〔想念〕、ベッドに頭をつけて寝ていたパスカル(3枚目の写真、矢印)が、ハッと目を覚ます。パスカルは、背後を振り返るがそこには何もない。自分は夢を見たのだろうか? ルイは昏睡状態のままだ。
  
  
  

それから何日後かは分からないが、ルイの母ナタリーからパスカルに緊急の電話が入る。「彼、ここに来たと思うの」。パスカルがナタリーの家を訪ねると、1通の手紙を渡される。そこには、こう書かれていた。「大好きなママ。パスカル博士は、ママとセックスしたがってる。ママは、男には近づかない方がいい。特に、パスカル博士には。ママ、警告しておく。危険が迫っていて、悪いことが起きるだろう。愛してるよ、ルイ。XOXOX」(1枚目の写真)〔Xはキス、Oはハグの意味〕。「郵便受けに入ってたの。最初はルイだと思ったけど、そんなの不可能でしょ。ピーターだと思う?」。2人は警察を訪れて手紙を見せる。専門家が手紙をOHP上で読み上げる(2枚目の写真)。専門家は、字の向きや振るえから、筆跡からバレないように利き手を使わずに書いたものだと話す。警部は、夫が残した筆跡見本と比較し、結果は一番に知らせると伝える。そして、パスカルを呼びとめ、「彼女とやったの?」と訊く。「まさか。なぜ?」。「ならいい。今後もそうしなさい。あなたの安全のために」。パスカルは、その後、ナタリーを、自分の病院の「夜勤医師の待機用の部屋」に案内する。安全確保のためだ。
  
  

パスカルは、その足で、ペレスに会いに行く。今は開業医ではなく、精神科の病院に勤めている。「20年も開業医をやれば十分だ。あれ以上、セラピストのイスに座っていたら、頭が破裂したかもしれん」。「急な依頼にも関わらず、会っていただき感謝します」。「ぜんぜん構わんよ。ルイは、素晴らしい子だったからな。こんなことになって すごく悲しいよ」(1枚目の写真)。ペレスは、「ルイを診たのは、僅か2・3ヶ月だった」と述べた後で、「ルイは、注意を惹かせようと自分で事故を起こしてきたと思ったが、それに符合しないものもあった」と言い、1通の手紙を見せる。紙には糞がこびりついている。以前、ルイが出した手紙だ。そこには、こうタイプしてあった。「あんたはデブの嘘付きだ、ペレス博士。2人だけの秘密と言ったくせに、約束を守らなかった。あんたは最低だ。重い病気にかかるがいい。敬具。ルイ・ドラックス」(2枚目の写真、矢印はハムスターの糞)。パスカルは、「これは、昨日、ナタリーの郵便受けにあったものです」と言って、手紙のコピーをペレスに見せる。ペレスは、「如何にもルイだ。疑いの余地はない」と断言する。「彼の言葉遣いは、非常に特徴的だ」。「ルイは昏睡状態ですから、彼にはできません」。「なら、彼を非常によく知ってる誰かだな」。「あなたのように?」。「それとも、ドラックス夫人か… 君は、ナタリーと呼んでたな」。「それとも、ルイの父親?」。「かもしれん」。パスカルがルイの父親について質問すると、「ルイは、2人の結婚についてしっかりした考えを持っていた。鋭い子だった。子供は、想像以上にいろんなことを知っている」。この言葉に触発されたように、シーンはルイの誕生日の朝に変わる。「パパは、誕生日に何をくれると思う? 次のラスプーチンだといいな」(3枚目の写真)。母は、「さあ。分かるはずないでしょ?」と冷たい。そこに、父の車が到着。ルイが飛び出して行く。父は、大きなプレゼントの包みを持っている。ルイは父に飛び付くが、「プレゼント、見たいか?」と言われ、下を見る(4枚目の写真)。「絶対当たらんぞ」。しかし、それは、ルイが期待した通り、3匹目のラスプーチンだった。次のシーンでは、母が決めたピクニックの場所に向かって、父が車を走らせている。2人は、もうすぐ迎えるルイの2週間の休暇を、どう分け合うかで口論を始める。
  
  
  
  

夜、パスカルが病院の自室に戻ってくると、妻が腕を組んで待っている。「ここで、何してる?」。「滅多に家に帰らないから、手紙を持ってきてあげた」。手紙は妻によって開封されていた。それを指摘すると、妻は黙って出て行く。手紙には、こう書いてあった。「パスカル様。あんたは、僕の世話に専念すべきなのに、ママとのセックスしか考えていない。彼女に構うんじゃない。警告を無視すれば、悪いことが起きるだろう」(1枚目の写真)。パスカルは、さっそく警部に連絡する。警部は、ルイの意識のない手を持ち上げてみて(2枚目の写真)、「ルイには、この手紙は絶対書けないの?」と訊く。「不可能です」。その後の会話の中で、警部は「ルイの転落についてナタリーがどう話したか、聞きたいわね」と言い出す。「なぜ」。「あなたは、彼女と親しくなったようだから、有益な識見が聞けるかと思って」。パスカルが言下に否定すると、警部は奥の手を見せる。「あなた、ピーター・ドラックスが、ルイの実の父親じゃないって知ってた?」。パスカルは知らなかったが、「知ってた」と答える。「じゃあ、このことも多分聞いてるわね。彼女は、赤ん坊の時にルイを養子に出そうとしたってこと」(3枚目の写真)〔これは、観客にとっても初耳〕。「それは、知らなかった」。
  
  
  

パスカルは、すぐに、ナタリーに会いに行く。彼女は、シャワーを浴びて戻ってくるところだった。「君に話がある」。そして、「ピーターが、ルイの父親じゃないって、なぜ話さなかった?」と訊く。「余計なおせっかいかもしれないが、君は、自分から、ピーターを 『知り合った唯一人の男性』と言ったんだ。なぜ嘘を付いた?」。さらに、「父親は誰なんだ?」とも。「ジョセフよ。一夜を一緒に過ごしただけ」〔本当は、レイプされた〕。詳しく訊こうとしたパスカルにナタリーは、「ルイの受胎は予想外だった。出産は地獄だった。2人とも死ぬかと思った」(1枚目の写真)「でも、後悔はしていないわ。そうでなければ、ルイは生まれなかったから」。「彼を手放さなかった〔養子に出さなかった〕ことは勇気があるね」。「誰に聞いたの?」。「警部さ。今日、病室に来た」。「他に何を聞いたの?」。「何も」。ナタリーは、自分が今まで「食いもの」にされてきたという被害者意識を強く訴え、パスカルの気を惹こうとする。それはある意味 成功し、2人は「一度限り」のセックスへと邁進する(2枚目の写真)。
  
  

金門橋が遠くに見える崖でピクニックが始まっている。夫婦はペレスのことで言い争っている。そこに、崖を見に行ったルイが戻ってくると、父が口論をやめさせる。こうして見ていると、父は、義父ながら実にいい人間で、母は、それに甘えて文句ばかり言っているように見える。ルイが「2人とも悲しいの?」と訊くと、父は「いやいや、誰も悲しんでない。今日はハッピーな日だろ。さあ、お祝いしよう」と暖かく声をかける。母は「大好きなもの全部袋に入れておいた」と言って手渡す(1枚目の写真)。この時、バックに母の声が流れる。「あなたの父親に会うまで、2人きりだった」。そして、そのまま場面は病院に移行する。母がルイに向かって語りかけている。「まだ話してなかったわね」(2枚目の写真)「でも、きっと察してるんでしょ。時々、あなたは何もかも、察してるんじゃないかと思うの。あの夜は、あなたを失うところだった」。救急車が走っている。「こんなこと、何度もあったわね」。救急車の中で、ルイが蘇生処置を受けている。横で泣いている母は、冒頭のヘリのシーンを思わせる。「この時が1回目だった。その時、私は、ほとんど知らない人に電話したの。あなたが、ほんの小さな赤ちゃんだった時に会った人よ。彼は、やって来ると、私を慰めてくれ、あなたが死ぬかもしれないのを待つ間、一緒にいてくれた。一晩中手を握っていてくれた」(3枚目の写真)「医者は間違えた… ピーターをあなたの父親だと思ったの。私たちが結婚してると思った」。ここで、結婚式のシーンに。「1年後、私たちは結婚した。最初の奥さんには悪かったけど、彼が愛していたのは私だった」。ここで、再度 病院に戻る。「でも、今は、彼が怖い。いつも近くにいるように感じるの」。
  
  
  

すると、ルイを見守る母の背後に、もう1人のルイ〔ルイの「想念」〕が現れ、「なぜ、彼女、あんなこと話すんだろ? バカみたい」と呟く。母:「彼が どんどん近づいて来て、あなたを奪っていくような気がする」。その時、背後から声が聞こえる。「聞いてはいけない。彼女は何も知らない」。「彼女は、すべて知ってるよ」(1枚目の写真)。「そうじゃないんだ」。場面は、病院の公園に。「これから 暗い場所に行くぞ」(2枚目の写真、矢印)「地球で最も暗い場所にな。お前を奪い去ったと言われるかもしれないが、そうじゃない。分かってるだろ?」。「僕がいなくなっても、誰も気にしないよ」。「一緒に来るか? 知るべき時がきたんだ」。「どこに行くの?」。「洞窟の奥深く」。「僕、戻れるかな?」。「勇気さえあれば」。
  
  

病院の関係者は全員、警察の命令で、利き手でない方の手で「悪いことが起きるだろう」と書かされている。パスカルが、「もっと穏やかな内容にはできなかったのかね? みんな怖がってるじゃないか」と抗議すると、専門家から、「2つの手紙に共通しているのはこの文だけです」と言われ、納得する(1枚目の写真)。このことは、警察が、捜査範囲を父親から病院関係者に拡大したことを意味する。その後で、ピーターの母ヴァイオレットが病院を訪れる。ヴァイオレットは、パスカルに、「私の息子がルイを傷付けるハズがない。そんなのばかげてる」と言い切る。「彼は、自分以上にあの子を好きだったのよ。こんなに長く、あの女と一緒にいたのも、ルイがいたからこそ。ピーターの結婚が幸せだったと思うの? ケイトリンはいい娘で、愛らしくて親切だった。そこに、あの雌犬がやって来て策略と嘘で…」。「ドラックスさん、もう十分です」〔パスカルはナタリーが好きなので、祖母の話が嘘としか思っていない〕。「彼女は、息子や私やルイに嘘を付いた。あなたにもね。彼女、母親の病気のこと話した? 父親のことは? 子供の頃、虐待されたって話した?」。「もう、聞きたくありません」。「彼女がレイプされたことは?」〔ルイはレイプによる子供だった。このことはとても重要〕。そこに、警部がノックなしに入ってくる。そして、緊急の用件だからと言って、パスカルを部屋から出ていかせる。バスカルが隣の部屋から、ガラス越しに見ていると、ヴァイオレットが警部に何か言われて泣き崩れる(2枚目の写真、矢印はヴァイオレット)。隣にいた看護婦に訊くと、ランズ・エンドの崖で死体が発見され、警察はそれがピ-ター・ドラックスだと考えているという話だった。これが正しければ、ナタリーの話は根本から覆される。ナタリーは、ルイばかりか、ピーターまで突き落としたことになる。映画では、もっと後になるが、ここに入れる方が分かりやすいので、ピーターの死体の検死の場面(3枚目の写真)をここで紹介しよう。係官が死体の前で報告している。「遺体はひどく腐乱し膨張しています。検視官は歯形を確認しました。崖から落ちて洞窟に波で運ばれたと思われます。彼は、ひどい裂傷と複雑骨折に苦しみました。腸の中に海草などが詰まっているので、落下時には生きていたことを示しています」。警部:「死因は衝突によるもの?」。「肺炎だと思われます」。「凡その見当で、死ぬまでどのくらい洞窟にいたの?」。「1週間か2週間でしょう」。
  
  
  

ルイを連れ出した「怪物」は、最初、ルイが落ちたランズ・エンドに連れて行く。ただし、それは現実のランズ・エンドではなく、想念の世界でのランズ・エンドだ。周囲は暗い。「降りるには急過ぎるよね」。「降りるんじゃない、飛び降りるんだ。怪我はしない」。「この前は、ここから落ちて死んだよ」。「今度は違う。痛みもない。私が先に行く」。怪物が飛び降りる。それに続いてルイも。海に落ちたルイは、怪物の後を追って泳ぐ(1枚目の写真、矢印は先に行く怪物)。場面は、病室に戻り、パスカルがルイに話しかけている。「君のお父さんが死体で見つかった。君は、もう知ってたんだろ。可哀想に。私に何か言いたいんだろ。話してくれないか」。ルイと怪物は洞窟に入って行く。現実の世界で、ルイの父ピーターの死体が発見された場所だ。「ここって、隠れるのに すごくいい場所だね。何も見えないや。でも、寒いね。誰か来るの?」。「お前だけだ」「ここが お前に話した場所だ。私の妻と赤ちゃんの名前が書いてある。一緒に探してくれないか」。「どんなものなの?」。「岩壁に書いてある」。その時、空間から、パスカルが、『The Living Sea』を読んで聞かせている声がかすかに響いてくる。ルイは、怪物に、「面白い話 何か知ってる?」と訊く。「『星の王子さま』」。「子供じみてるよ。コウモリの話がいいな」。「昔々、3匹のコウモリがいた。1匹の雄と2匹の雌だ。雌の1匹はいつも笑っていた、もう1匹の雌はいつも泣いていた。雄のコウモリは、どちらかを選ばねばならなかった」。「交尾するのに?」。「そうだ。彼は、笑ってる方が好きだった。しかし、泣いている方が可哀想に思えた。もっと助けが要るように見えた。彼は、彼女を心から愛すれば、泣くのをとめられると考えた」。「なぜ、泣いてたの?」。「みんなに、可哀想だと思わせるためだ。同情されるのが好きだった… 冗談を言ったり愛するよりも」。「あなたは、どうなったの?」〔「彼」から、「あなた」に変わった〕。「幸せだった。赤ちゃんコウモリが持てたから。その上、そのコウモリは、全世界で最も素晴らしいコウモリだった。私は、家中の何よりも彼が好きだった」。「街中のどの通りより?」。「海の中のすべての魚より」。「でも、赤ちゃんコウモリには問題があって、みんなを悲しませたんだ」。「それは違う! 彼は完璧で、利口で、不思議で、素晴らしく、優しく、愛らしかった」(2枚目の写真、右の矢印は「怪物=父」の変容した姿、左の矢印は「ナタリー+ルイ」と書かれた文字)。「私は、彼のことが誇らしくてたまらなかった」。「お願い死なないで、パパ」(3枚目の写真)。「分かってるよ、愛しい子」。怪物が父だと分かる悲しくも感動的なシーン。父は、何よりもルイのことが好きだったのだ。1つ前に、祖母が、「彼は、自分以上にあの子を好きだったのよ」と話したのは事実だった。そして、父がケイトリンでなくナタリーを選んだ理由も判明するが、その裏には、ナタリーの「同情されたい性癖」のあることも判る。ナタリーは、最後に「代理ミュンヒハウゼン症候群」だと診断されるが、これは、①自分の子を意図的に傷付けることで、②自分に関心を集め、③それで精神的満足感を得ようとする精神疾患。この段階で①までは分からないが、②と③は「いつも泣いている雌コウモリ」の行動と合致している。
  
  
  

昏睡病棟内の机で眠ってしまったパスカルが、朝 目が覚めて看護婦に声をかけると、意外なことを聞かされる。昨夜、パスカルが夢遊病のように行動したというのだ(ルイのベッドの脇に座っていたら、看護婦の近くまで歩いてきて処方箋の紙に何か書き、それをクシャクシャにしてゴミ箱に捨て、机に戻ると眠った)。看護婦が取っておいた紙を見ると、そこには、患者名のところに、「ナタリー・ドラックス」、薬品名のところに「インスリン、クロロホルム」と書いてある(1枚目の写真)。薬の右の投与量の単位は無意味な記号だ。パスカルは、さっそく警察に通報する。そして、監視カメラの映像から、処方箋を書いている時、左手を使っていると指摘する(2枚目の写真)。専門家は、処方箋の字と、2通の手紙の字が同じであると確認する〔以前の2通の手紙は、パスカルが左手を使って書いた〕。パスカルは、ルイが自分を「操って」書かせたと主張するが、警部は「こじつけ〔far-fetched〕」だとして相手にしない。そして、9歳の子供が毒物の処方箋を書けるはずがないとも。処方箋の内容は、医療従事者だったら絶対に書かないことだとパスカルが述べても警部は要点に入ろうとしない。崖にいたのは3人。うち2人が転落していれば犯人は残る1人に決まっている。しかし、警部はピーターの捜査には熱心だったのに、ナタリーを逮捕もしないし、取調べようともしない。この辺りの不自然さが、この映画の低評価につながっているのではないか?〔もちろん、昏睡中のルイがパスカルを使って書かせたという設定や、怪物めいた父の出現も非現実的ではあるが、それなりに筋は通っている〕
  
  

警察は何もしてくれないので、パスカルはペレスに相談をもちかける。パスカルは、「彼女が、事故に関与したかもしれないと、疑ったことはないのですか?」と訊くが、ストレートな返事はもらえない。「何が言いたい?」。「ルイが、私に処方箋を書かせたのは変じゃないですか?」。「変?… 誰に? どこが? どんな風に?」。ペレスは、2通の手紙は、パスカルが何らかの理由で書いたと思い込んでいる。パスカルは、「ルイは、この件に多分無関係でしょう。でも、もし、あなたが間違っていたら。もし、ルイが接触しようとしていたら、彼の主治医として見捨てることはできません」と強く主張する(1枚目の写真)。ペレスは、その熱意に押され、パスカルの精神障害を疑いつつ、協力することに決める。ここから先が、一番 「あり得ない」部分。パスカルは、ルイのベッドの手前のイスに座り、ペレスによって催眠状態にさせられる。そして、晴れた日に、海岸で遊んでいる多くの子供たちを連想させられる。「暖かい風が沖合いから吹いてきて顔にあたる。遠くで波が砕ける。すると突然、海岸から人影が消える」。薄暗い海岸に1人の少年が立っている。「もし、まだ誰か海岸にいたら、左手を上げて欲しい」。パスカルの左手が上がる(2枚目の写真)。
  
  

ペレスは続ける。「その人に近づいて」「これから、私はその人に話しかける。その時は、返事をするのは、その人で、君ではない。分かったね?」。こう言うと、ペレスは「ルイ?」と話しかける。「君なのか? 私だ」(1枚目の写真)。すると、画面はルイと同じ海岸に立っているペレスに変わる。「ペレス博士だ」(2枚目の写真)。「何が起きたか話してくれないか? あの日、何が起きた?」。この質問に、パスカルが答える。声はパスカルだが、話し方はルイだ。「ピクニックは、ラスプーチンも一緒だった。だけど、ママは籠から出すなって言った」。「ピクニック? 何を食べた?」。「食べ物に決まってるだろ。あんた、脳みそが豆粒大になったんかい?」。「どんな食べ物?」。「もちろん、訊きたがると思ったよ、デブチン。リストが欲しいかい。お腹空いてるんだろ?」。「そうだ。リストを言って」。こうして、如何にもルイらしい口調で会話が続けられる。ペレスは、今や、相手がルイだと確信している。
  
  

そして、あの日、実際に起きたことが話される。最初に映されたのはバースデーケーキ。「願いをかけないと。ママは、僕がずっとママと一緒にいて、悪いことが何も起きないでって望んでた」(1枚目の写真)。「君の望みは?」。「パパがホントのパパだったらいいな。そしたら、ずっと一緒にいられるから」。「それを2人に話したのかい? それとも胸にしまっておいた?」。「言おうとしたけど できなかった。ママとパパがキャンディのことでケンカを始めたから」。母が、キャンディの蓋を取って、ルイに差し出す。すると、父が、「俺が先だ」と言って取ろうとしたが、母は、ビンをさっと遠ざける。「何の真似だ?」。「ルイのために作ったのよ」〔実は、毒入り〕。父:「ルイ、1個もらっていいか?」。ルイ:「1個あげていい?」。母:「ダメよ。ルイのために作ったんだから」。そして、母は再び〔毒を食べさせようと〕ビンを差し出す。そこに、また父が手を出したことで(2枚目の写真、矢印のキャンディ全部に毒が注射されている)、2人の間で口論が始まる。以前の母の説明では、夫が「暴力的になった」と言ったが、原因は言わなかった。原因が「毒入りキャンディ」とあっては言えるはずがない。
  
  

ビンを巡っての激しい争奪戦。ルイが「やめて!」と叫ぶ。ペレス:「それから、どうなった?」。パスカル:「僕は逃げ出し、彼女が追い、彼がその後を」。崖っぷちまで逃げたルイに母が駆け寄る。一足遅れて着いた父は、ルイが危険な場所に立っていることから、「こっちに来るんだ、そこは危ない、すぐ後ろが崖だ」と必死に声をかける。そして、ルイが自分の意志で、母から逃げて父に助けられると〔以前の写真では、父が、ルイの体をつかんで海に投げるように見えたが〕、「車で待ってろ」と言われる(1枚目の写真)。その後、父は母に、「なぜ、彼を傷つけようとする? 君には治療が必要だ!」と詰め寄る。そして、母は、そんな父を崖に向かって強く押し(2枚目の写真)、父は転落する。
  
  

「それから、何があった?」。「僕は、彼女の望むままにした。いつもそうだったように」。殺人を見たルイは、恐ろしそうな目で母を見る(1枚目の写真)。母は、以前の「いつも泣いていたコウモリ」に戻るが、意を決してルイの方を向くと、「こちらにいらっしゃい」と声をかける。「君はどうした?」。「後ろに下がった。あの時、彼女には、僕を助ける気などなかった。何歩下がれるか? 5歩は十分あった」。ルイは、「1,2,3…」と崖に向かって後退していく(2枚目の写真)。5歩まで下がり、「それから、6歩目もあると思った、でもなかった」。ルイは、一歩下がるが、その先は空中だった(3枚目の写真、矢印)。「6歩目の代わりに、僕は海に落ちた」。
  
  
  

パスカルが「そして、死んだ」と言うと、それと同時にルイのモニター(血圧や心拍数)がすべてゼロになる。看護婦が「コードブルー」と叫び、催眠を中断したパスカルも駆けつけ、何度も電気ショックを加える(1枚目の写真)。ショックがかけられる度に、過去の映像が逆順に一瞬流れる。最初は、ピクニックに持って行ったキャンディに 母がパイプ洗浄剤を注射しているところ(2枚目の写真)。次からは、この映画の冒頭にあった「事故」の原因映像となる。ルイが食べていたスパゲティには、腐った肉汁が注ぎ込まれていた(3枚目の写真)。ルイが、コンセントにフォークを差し込んだ瞬間、母はスイッチを入れていた(4枚目の写真)。そして、最初の事故。天井から照明器具がベビーベッドの真上に落ちてきたシーン。母は、その前に枕で窒息させようとしていた(5枚目の写真)。この時、幸いにして最後の電気ショックが効き、ルイが生還する。
  
  
  
  
  

場面は変わり、パスカルが、引っ越し用のトラックに自分の持ち物を積み込み、家から出て行こうとしている。ここにルイの独白が入る。「パスカルは、他の男たちと同じように間違いを犯した。ママがとても美しいから、善人に違いないと考えたんだ。でも、彼女はそうじゃなかった。だから、今じゃ、病院で暮らしてる、僕みたいに。そして、デブのペレスに何もかも打ち明けなくちゃいけないんだ」。病院を訪れたパスカルは、ペレスに、「彼女の診断結果は出ましたか?」と尋ねる(1枚目の写真)。「代理ミュンヒハウゼン症候群だ。患者は、他人、たいてい自分の子供を虐待し、それによって注目されようとする。ルイが小さい頃は、彼女が自ら彼を傷付けた。ルイが大きくなると、彼は、母が望んでいることを学び、愛と引き換えに、彼女の要求に応えたんだ。彼は事故に遭い、彼女が助けた。そして、その度に2人の結び付きはより強固になっていった。彼女はルイを愛し、同時に、憎んだ。邪魔なこともあるが、彼なしでは生きられないんだ」〔母が、ミュンヒハウゼン症候群ではなく、代理ミュンヒハウゼン症候群になったのは、ルイがレイプによってできた「犠牲にしてもいいような」「望まない」子供だったからかもしれない〕。ここで、パスカルはナタリーの部屋に入って行く。「パスカルは、自分で選んだ途を行くしかなかった。僕がそうしたように。『甘受』して生きるんだ」「物事は、時として、楽しいやり方で運ぶ。いいや。楽しくはないな… 予想外の冗談だから」。カメラは、臨月を迎えたナタリーの大きなお腹を映す(2枚目の写真)。一度きりのセックスで、ナタリーはパスカルの子を身ごもったのだ〔今度の子は、「代理」にはされないだろう〕
  
  

昏睡病棟のルイ。ベッドの脇では、祖母がルイの好きな『The Living Sea』を読み聞かせている。「『可哀想なルイ・ドラックス』なんて 思っちゃいけない。ムカつくほどひどいわけじゃないんだ。嘘じゃないよ」。さらに、独白は続く。「生まれてから、この時を待ってたんだ、9年間ずっと。9は 僕のラッキー・ナンバーだ。これが、僕の9番目の人生。今までで最高の人生だ。前のは みんなひどかった。神経症の子や 『事故に遭いやすい』子でいるって、大変なんだ。ママとパパが憎み合ってるのは、ムカつくし、学校もムカつく、『Whacko Boy』なんて呼ばれるのも。昏睡状態だとムカつかない。ママが壊れるのを心配しなくていい。パパとは これからもずっと一緒にいられる。話したい時は、いつもそばにいてくれるんだ」。その時、「父」の声がする。「今のままでいる必要はない。望むなら、目を覚まして生きられる。そうしたいか?」。「分からない」。「それは、次に何が来るか、どのくらい知りたがっているかによる。世界を考えてみるんだ、ルイ。世界に満ちている不思議な魅力や大きな可能性を」。「でも、パパがいないのに、戻ることに何の意味があるの?」(1枚目の写真)。ここで、過去のシーンに戻る。父が最初に家を出て行った日だ。「私は、いつも一緒だ、いつも、ここにいる」と言って、ルイの胸を指差す。「私の姿が見えなくても、手を握らなくても、いつでも話すことはできる。愛してるよ、坊主」(2枚目の写真)。「じゃあな」と言って立ち上がった父を ルイは引き止めで抱き付く。「置いてかないで。ここにいて。出てって欲しくない」。「ごめんな、坊主」。「パパ、大好きだよ。家中の何よりも、ずっと」(3枚目の写真)〔以下、洞窟の中で交わした会話とほぼ同じ〕。「私も、家中の何よりも お前が好きだ。街中のどの通りより。海の中のすべての魚より」。そして、最後に、「すべてうまくいくからな。約束する。お前は 世界一強い男だ」と語りかける。どちらも泣いている。とても感動的なシーンだ。ルイは、海の中を泳ぎ続け… 病院のベッドの下からカメラが上がり、ルイの顔が画面いっぱいに映ったところで停止する。しばらくすると、昏睡状態だったルイの目がパッチリと開く(4枚目の写真)。ルイは昏睡という現実逃避をやめて、9番目の人生を生きることに決めたのだ。このラストは、『アバター』の覚醒シーンとそっくりだ。
  
  
  
  

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